不意の振動に、私は鉛筆の動きを止めた。

ポケットの携帯が鳴っているらしい。

取り出して開けば、メール着信の文字。

私はその文面に目を走らせると、携帯を閉じた。

「また、」

マスターが言った。

私はそちらに目を向ける。

マスターは私と目が会うと、
フッと苦しそうに眉をひそめた。

この人は、私の表情をうまく読みすぎる。

友達からのメールか、
そうでないかをすぐに察してしまうのだ。

「…いや…。…戻って来るだろ?」

マスターは口ごもった後に、そう聞いて来た。

「わかんない。気が向いたら戻るよ。」

私はそう返すと、
スケッチブックを閉じて立ち上がった。

マスターが私の顔をじっと見てるのがわかるから、
私はあえてそちらを見ないようにした。

「待ってなくていいからね。」

私はそれだけ言って、
コートを羽織ると店を出た。