「はい、奈津ブレンド。」

マスターの声に目を上げたら、
カウンターの向こうからいい香りのするカップが差し出された。


「まぁた、僕で新しいブレンド試すんだからぁ。」


言ったら、
マスターは笑って頬を掻いた。



その笑顔が、好きだった。



そう、私は恋をしていた。



あまりにも無謀で、

叶うはずのない、

恋。



まだ未成年の半家出娘と、

30代も半ばの喫茶店のマスター。



釣り合わないのはわかっている。



彼にとっては私なんて、
よく来る世話のやけるお嬢ちゃんだろう。


それでいいんだ。


こうやって、言葉を交わせるだけで。