タクシーを捕まえて、

私は喫茶店の住所を告げていた。


最後に、
一つだけ叶うとしたら。

私の願いは、一つ。


タクシーから降りて時計を覗いたら、
ちょうど午後8時を過ぎたところだった。


ドアにはCLOSEDの看板。


私はそっと、
その扉を叩いてみる。


カチャリと開いたドアから、マスターが顔を出した。

驚いた顔をした彼を見て、
きっと目が真っ赤なんだって理解した。


黙って開かれるドアに、私は店内に滑り込む。


鍵が閉められた音。


シンと静かで、照明の落とされた店内。


キッチンからの僅かな明かりが、
店内に柔らかく広がっていた。


黙っている彼を、
私は振り返った。


そして、
その肩に額を押し付けるように、
体を寄せた。