あたしは倉本さんを見上げた。 「千円でいいよ」 電車なら片道千円もかからない。 あたしがそう言うと、倉本さんは財布をしまいながら言った。 「こまかいのはないんだ」 「じゃあ、今度ちゃんと返すから」 そう言って手を出すと、倉本さんは1万円札を持った右手をスッと上にあげた。 えっ? あたしが出した右手は宙に浮いた。 と、次の瞬間――