あたしはできればこの人には頼みたくなかった。 けど、貝塚さんは出かけちゃったみたいだし…… 「ねえ、お金貸して」 あたしがそう言うと、倉本さんは目尻の涙を指でぬぐいながら席を立った。 泣くまで笑うことないじゃん。 笑い過ぎだっての! 尻ポケットから財布を取り出しながら、倉本さんはあたしのそばにきた。 長財布から1万円を抜き出し、私に差し出してきた。