あたしは大げさに抗議して、私の腕をつかんでいた伊織の手を振り払った。
しかし、ヤツはなんとも感じていない様子で言った。
「慣れない仕事で疲れたろう。
夕飯をおごるよ。
和洋中、何がいい?」
「はあ?」
そう言ってさっさと前を歩いていく背中を追いながら、思いもかけない申し出にあたしは拍子抜けしていた。
「横浜中華街には食べに行ったことあるか?
いい店案内するぞ」
たしかにこいつなら、高級中華料理店にも足しげく通っていそう。
でも、食事をおごってもらったくらいじゃこの間のセクハラはチャラになんてできない!
それにそもそも、こいつと一緒に食事とか、ありえないんだけど!


