花とアイドル☆《完》

     ☆☆☆☆☆



バタン! と閉まった玄関の戸の
音を聞きながら、拓斗は独り言の
ように呟いた。


「本って――明日じゃダメなの
かな」


「大学の授業でお使いになるの
かもしれませんねぇ…」


てっきりもう一人分コーヒーが
必要になるだろうと、キッチンに
戻るつもりだった奈津美さんも、
立ち止まったまま答える。

「なのかなぁ。

けど、なんかちょっと様子おかし
くなかった?

チョコ、いらなかったのかな」


「甘いものは大好きだって、前に
おっしゃってましたけど……」


「あ、やっぱり?

だよなー。見るからに好きそう
だもん」


ふに落ちない様子で首をひねる
拓斗に、奈津美さんは席につき
ながら軽く笑う。