今日は、仕事が忙しい母が珍しく連れてきてくれた海の博物館にいた。
といっても、母はやはり仕事の一環だったようで、あちこちに走り回っては偉そうなスーツを着た人たちに挨拶をしては難しい話をしていたようだった。
普段、母とは疎遠の仲の僕は、声をかけられて大分驚いたが、博物館についてその意味を理解した。
嫌そうに僕を博物館に誘った母は、幼い弟のお守役が欲しかったらしい。
母は、弟が生まれてから僕に全く興味を示さなくなった。
今はもう慣れてしまって、弟の世話だって喜んでしているが昔は弟が憎くて憎くて仕方がなかった。
母は博物館に着くなり、こちらに目もくれず博物館の館長に会いに行ってしまった。
つまり、弟は僕が面倒を見ろ、ということだ。
弟には少し退屈かとも思えた博物館だったが、以外に興味を引くものがあったらしく、弟は僕の腕を引きながら駆け回っていた。
そんな中、弟は見つけたのだ。
『人魚の涙』を・・・。
人魚の涙というソレは、とても美しかった。
僕の中にある黒い感情が全て、この人魚の涙を見るだけで馬鹿馬鹿しくなってしまうほどに、美しかった。
