「ママ、これ何~!?」
幼子は、少し遠くにいた自分の母に、小さな手を一生懸命に振って呼んだ。
「ゆうちゃん、“ママ”は忙しいんだから・・・呼んだら駄目だよ?」
それを制したのは、ゆうちゃん、と呼ばれた幼子の兄だった。
兄は弟の関心を引いているソレを見て、はっとした。
弟が見ているモノは、『人魚の涙』と書かれた札をつけ、随分物々しさを感じさせるガラスケースに入れられていた。
「にぃちゃ、これ、なんだったの?」
少し不満ながらも、母を呼ぶのを諦めた弟は兄を見上げてつぶやいた。
「うん、これはね・・・人魚の涙っていうんだって」
「涙?人魚さんが泣いたの?」
「・・・うん」
兄はもう一度、少し強張った表情でガラスケースを見た。