結局、タバコには火をつけず、そのまま机の引き出しに戻したセンセイは、
「筆、ありがとうございます」
あたしの前に立って、手を差し伸べた。
「いいえ。罰、ですから」
洗ってきた筆をその手に乗せると、
「そうはっきり言われると、悪いことをしている気分になりますね」
センセイが苦笑した。
「センセイがいつも言ってることでしょう? 罰ですから」
「言ってますか?」
「言ってます」
「イヤですか?」
「そうでもないです」
自分の言葉にはっとして顔を上げると。
優しい目が、あたしを見下ろしていた。
「最近の佐伯さんは、何だか少し可愛いですね」
あたしの頬に、大きな手のひら。
「いい顔、してますよ」
赤く染まったそこを、センセイの親指が、くすぐった。

