胸の上を通った片腕が、ぎゅっとあたしの動きを封じ込める。


バランスを崩したあたしは、白衣の胸に顔をうずめる形になった。



直後、準備室のドアが開いて。


2つの足音が、教壇のすぐ横を通り過ぎていった。



白衣の奥から、センセイの音が聞こえる。


あたしよりもゆっくりだけど、


少し、早い。



「よかった。思いのほか早く出てってくれて」



センセイの胸の中で、声が鳴る。



「佐伯さん? すみません、苦しかったでしょう」



腕をゆるめたセンセイは、あたしの顔をのぞき込んだ。



「だ、いじょうぶ、です」



首をふると、



「さて、準備室に移動しましょうか。この場所は危ない」


「……え?」


「いいえ、ひとりごとです」



そう言ったセンセイは、



「帰る、なんて言わないでくださいね。罰ですから」



前髪をかき上げて、困ったように笑った。