「……それ、」
1メートル四方くらいある白地の上には、どこかで見た景色がデッサンされていて。
「さく、ら?」
「ええ」
「もしかして、そこの?」
「ええ。そこの」
窓の向こうに見える、緑が芽吹き始めた桜を眺めながら、センセイは目を細めた。
「桜がね、好きなんです。特にそこの桜は寂しげで美しい。佐伯さんも知ってますよね」
振り向いて、センセイが言う。
「春休み期間中に咲くでしょう? 事務局に許可をもらって描かせてもらってたんです」
「そ、だったの?」
「ええ。侵入したわけじゃないんですよ」
誰かさんみたいに。
そう言いたげな顔で。
「塀を乗り越えてきたのがオンナの子だったのには驚きましたけどね」
最初から見てたんですよ。
とは言わなかったけど。
あたしの複雑な表情を見て、センセイは可笑しそうに笑った。

