窓際に立って、センセイの白衣に手を触れた。
ちょっとだけ濡れている。
「乾いてますか? さっき洗ったんです、それ」
突然、後ろからセンセイの声がした。
中庭にいる時もそうだけど。
足音も聞こえないなんて、ホント、猫みたい。
急いで白衣から手を離したあたしは、驚いたのを隠すために口を開いた。
「まだ、濡れてるみたいですけど。っていうか、洗ったって、どこで?」
「美術室の水道です」
「水道?」
「ええ。すぐに汚れるから洗剤は常備してるんです。白衣もね」
言われてみれば、棚にある洗剤を手にしてあたしに見せているセンセイは、しっかりと白衣を着ている。
「用意が、いいんですね」
「先を考えて動くのが好きなんですよ」
首をかしげたあたしに。
「お待たせしてすみませんでした」
軽くほほ笑んだセンセイは、
棚から1枚のキャンバスを取り出した。

