そして。
画筆を持ったあたしの手を包む、熱。
センセイの手のひら。
スカートの下のふくらはぎは、
白衣の裾にくすぐられていて。
「どうしました?」
いつもの的確な言葉が出てこない。
それどころか、呼吸さえも何だか苦しい。
「カタくならずに」
ブラウスの背中に、センセイの体温がくっついて。
「佐伯さん?」
あの日のように、近づいた声。
「耳が赤いようですけど。熱っぽいんですか?」
心配してるふうを装ってるけど、絶対ちがう。
「ひとり、で、描けます」
負けていられないと振り向いた頬に、
センセイの鼻先が触れて。
目を見開いたあたしの顔は、
数センチ先の黒い瞳に閉じ込められていた。

