――どのくらいの間、そうしていただろう。
「この姿が、本当の佐伯さんでしょう?」
いつのまにか隣に立っていたセンセイは、桜の中のあたしに目を細めている。
「前にも言ったかもしれませんけど、もっと素直になってみたらどうです?」
「……」
「その手紙も、本当は嬉しいんじゃないですか?」
「……」
「どうでもいい人間に手紙を書いたりはしませんよ」
握りしめてくしゃくしゃになった手紙に視線を落として、あたしはうつむいた。
「みんな同じ人間です。まして高校生だ。少しのことで絶望的になったりもするでしょう」
キャンバスに目を向けたまま、センセイが続ける。
「自分ばかりが辛い想いをしてると考えがちですけどね。でもそうじゃない。
大きさはそれぞれに違うかもしれないけれど、誰でも不安や不満を抱えているのが当然なんです。そこを乗り越えて、成長していくんですよ」
「乗り越えて……」
あたしに視線を落としたセンセイは小さくうなずいた。
「辛さを逃げて回避しても、また同じことを繰り返すだけです」
センセイの目が優しいから。
あたしは視線をそらした。
もらえた手紙。
絵の中のあたし。
噛みしめていた唇が小さく震えて、涙があふれてきて。
透明な水球が、床にぽつりと落ちた。
頬を流れる涙の温かさに、それが悲しい涙じゃないことが分かったから。
余計に気持ちが高ぶって。
次から次にあふれ出る涙を止めることができなかった。

