「ごめんね、待ってるって言ったのに先に来ちゃった」
「ううん」
「でもあたし、バイトあるの忘れてて。もう帰ろうかなって思ってたところなんだ」
「そう、なんだ」
「佐伯さんが遅いから、センセイも退屈してたみたいだよ?」
「……そんなこと、」
その明るい声で、
ひまわりみたいな笑顔で、
ウソをつくの?
あなたも。
「じゃ、また明日ね」
「……うん」
ひらひらと手をふって美術室を出ていく彼女を見送ってから準備室に目を向けると、
眼鏡をして、白衣を着て、
いつもと何も変わらない穏やかな顔をして、
「始めますよ? 佐伯さん。水をくんできてもらえますか?」
センセイの赤い唇が、あたしを見ながら言った。

