「あ、佐伯さん」 あたしの顔を見ながら、ごしごしと涙のあとをぬぐっている。 「痛たた」 何も見てないから。 とっさにそういう顔を作った。 「よそ見して歩いてたらつま先ぶつけちゃった」 大げさに、足先を撫でてみたりして。 ウソをつくのは……得意だから。 「やだ、大丈夫?」 いつもの明るい笑顔で話しかけてくる上原さんに、笑って大丈夫だと答えた。