「らしくないな」
「……だって、」
ほんの少し開いていた準備室のドアの前。
あたしは中のふたりを目にしたまま動けずにいた。
「泣いたって仕方ないだろ」
センセイの白衣のすそがふわっと動いて、上原さんに近づく。
いつも絵筆を握っている手は、彼女の頭の上。
まるで、イイ子イイ子するみたいに。
「……すぐ子ども扱いしないでよ」
「こんなところで泣いて。子どもだろ」
くだけたふたりの言葉づかいに、自分の耳がおかしくなったのかと思った。
けど。
ハンカチを取り出したセンセイの左手が動いて、上原さんの涙をぬぐったとき、
ふたりの間に、特別な空気が流れていることがわかった。

