たぶん、と確信が持てなかったのは、
美術室で見る普段の姿と、重ならなかったから。
それでも蓮見センセイだと思ったのは、
白衣のすそが、ゆらゆらと揺れていたから。
「もう10時過ぎですよ?」
ちょっと鼻にかかった低めの声。
「ダンスの練習ですか? くるくるまわって、楽しそうでしたね」
通った鼻筋の下の、形のいいくちびる。
笑われてる。
そのヒトの口の端がわずかに持ち上げているのがわかったら、急に恥ずかしさが込み上げてきて。
「ち、が……」
こんなところでダンスの練習なんてするわけないでしょう?
最後まで言い返せなかったのは、
なんのためらいもなく伸ばされた腕が髪の表面をゆるくすべったからで。
あたしのせいじゃ、ない。

