「ずるいかも知れぬが、そのことについては、触れないでおく」
何かを覚悟したような彼女の瞳に出会い、ずきり、その真剣な眼差しが胸を貫く。
「え!!しのちゃん、それでいいの?!だって、徳川家が滅んだら、」
「栄えし者は、必ずや衰えゆく。それが、道理」
狼狽していた鞠千代も、静かに放たれた重みのある言葉に、口を噤む。
未来を知っているということが、こんなにも残酷でしかないなんて。
「だが―――」
彼女は続けた。
「例えこの先、何が起ころうとも、どんな結末が待っていようとも、守るもののため、己の志や誇りのため、我らは前を向き、今を全力で生きる。ただ、それだけだ」
「っ」
凛とした瞳、声、表情。
それらに触れて、息を呑んだ。鳥肌が立つ。澄み切った青空のように清清しい決意に、胸を強く打たれた。まるで映画のワンシーンにでも迷い込んだよう。平穏を当然のように享受して生きてきた自分が、如何に平和ボケしているのかを知る。弱弱しいことばかり口にしていた自分が、とても愚かしく、情けなく思えた。
――ドタドタドタドタ!!
そんな時、三人の耳は何やら荒々しい音を拾う。一定の間隔を保ち、明らかに此処へ近づいてくる足音。姿は見えないけど、音に機嫌の悪さが滲み出ている。
今度は誰だろう?
「やっば!!あたし、もうここに入んなって言われてるんだった…!」
血の気の引いた表情の鞠千代が慌てて立ち上がる。
「こんな不機嫌な足音で屯所内歩くの許される人、一人しかいないっての……!あたし、逃げるから、じゃあねー!!」
言うや否や、鞠千代は素早く戸を開け、猫のようにいなくなってしまった。
あれ?ふつうに戸から出てった。忍びっていっても、煙みたいにいなくなるわけじゃないんだなあ……。
