暫くしてその手拭いを離すと、私が落ち着くのをじっと待ってくれていたかのように彼女は口を開いた。
「死にたい、などという馬鹿げた願望は消えたか?」
相変わらず淡々としてはいるけど、僅かながら温かさを含んだ声。それを聞いて、さっきの会話が思い起こされる。
勘違いなのかもしれない、ううん……私一人の、勘違いでもいいや。あの人は、私を心配してくれていた。親にも心配されたことのない私を、心配してくれてた。私が、あの男たちについて行ったことを、ただ単に責めてたんじゃない。叱ってくれてたんだ…。
改めてそれに気づき、目頭がじわっと熱くなる。私は、小さく何度も頷いた。
「…そうか。なら、よかった」
表情こそ変えないものの、今朝とはちがって声には彼女の心情が表れている。
「人は弱い、な」
視線を少し下げ、彼女は話し出す。
「都合の良過ぎる生き物だと思う。自分は僅か数十年の命と知りながら、死を恐れるあまり必死に生にしがみつく。その癖、何かあれば簡単に死にたいなどと口にする。死へ、逃げようとする」
さっきまでの私は、正にその通りだ……。
恥ずかしさが込み上げる。なんて、浅ましいの。でも耳を塞いじゃダメ。しっかり聞かなきゃいけない。私に必要な言葉を、彼女は持っているはずだから。
「しかし、いざ死を目前にすると、自らの命惜しさに必死に助けを呼び、許しを請うものだ。私は……そんなやつらを今まで、何人も見てきた。もちろん、私自身とて、命は惜しい。人間という生き物である以上、この浅はかな考えも完全に捨て去ることは不可能だと思う。だが―――死んだ方が楽、というのが、お前の本当に素直な気持ちだったか?」
そう言って、真っ直ぐに私と視線を交えた。
