「刀を納めろ。お前自身もわかってるだろ?」
「っ」
「……お前にその娘は、殺せない」
意味深な言葉。迷いのない断定。どこからそんな確信が出てきたのか私にはわからなかったけれど、彼はゆっくり刀を鞘へと戻す。その表情は言われたので仕方なく、というよりは寧ろ、自分では認めたくなかった事実を告げられたことに安堵しているようで。
「盗み聞きなんて、悪趣味だね」
くす、と力なく笑う彼。微妙に淀んだ場の空気を変えようとしているのが伝わってきた。
「失礼な…!盗み聞きではない、立ち聞きだ」
「たいして意味変わらないでしょ」
このやり取りも今はなんとなくぎこちない。
「で?なんで盗み聞き、じゃなくて立ち聞きしてたの?」
「副長がお呼びだ。それを伝えにきた」
「わかったよ」
彼が戸へと歩き出し、私の中に戸惑いが生じる。
行ってしまう…。どうしよう、何か言った方が、謝った方がいいのかな……でも、なんて言えば…?それに今は私となんか口も聞きたくないかもしれないし。でも、でも……。
そうこうしている内に、私を若干気にかけたような雰囲気を出しつつも、彼は何も言わず出て行ってしまった。残念なような、ホッとしたような、複雑な思いになっていると、すっと手拭いが差し出された。
「使え」
「これ…」
「湯で絞ってきた。ほら、顔でも拭いたらどうだ?」
手渡された手拭いはまだじんわり温かい。それをそっと目に当てた。
荒れていた風が凪ぐように、空白だった心が、混乱していた頭がだんだんと落ち着きを取り戻していく。
