まるで映画でも観ているようだった。初めて触れた戦いの空気に体が動かない。ずっと二人の動きを目で追っていると、私を一瞥した沖田さんが表情に青を注し、慌てた様子で突然こっちへ向かって駆け出す。
え、なんなんだろう?
「っ、逃げろォ!!」
何かに気付いたように表情を凍らせた東雲さんも、叫ぶ。
がさっ。それが自分への言葉であると理解したと同時に背後に気配を感じた。反射的に振り返れば、額に汗を浮かばせ、勝ち誇ったように唇を吊り上げる男と視線がかち合う。
逃げろ、と言われても、麻痺した脳は神経に指令を下せない。
男は片手で胸元を押さえると苦しそうに表情を歪め、一瞬動きを止めた。しかし瞳に僅かに力を戻す。自分がこうなったのは、全てこいつのせいだ、と。そのような怨念と化しつつある思いで最後の気力を振り絞っているかのように。
こんな時なのに、憎しみは生きる力になる、という言葉を思い出す。
私、今度こそ死ぬの?家族を憎んでいたから、その憎しみが自分へ返ってきたってことなのかしら。おかしい、死ぬって実感、湧かないや……。
「―――朔ッ!!!!!」
彼が初めて私の名を口にした刹那、ザシュッ、という肉体が斬られる生々しい音がした。
――ドサッ。
斬られた体は、ゆっくり地面に横たわる。私の隣へと横たわる。男の背には、先ほどまではなかった新たな傷が刻まれていた。
〝一体、誰が?〟
みんなが抱いた疑問は、すぐに晴れることとなった。斬られた男が立っていた場所―――私の正面に、藍墨茶(アイスミチャ)の着物の上に浅葱色(アサギイロ)の羽織を纏った青年が立っていたのだから。
