凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━





それにしても、この人……私を助けて本当に大丈夫なの?

自分のことに精一杯で、今まで全く気付かなかったけど、この人、屯所に帰ってから咎められたりはしないのかな。




「あのっ」

「はい?」


平田はやはり振り返らない。



「私を逃がした後…あなた、大丈夫なんですか?あの土方って人に、怒られたりとか……あなたの身は、大丈夫なんですか?」



見えるはずなんてないけれど、平田の表情を窺うように真剣な瞳で見つめる。


この人の命は…大丈夫なの?




「そんなん、今更訊いてどないしはるんです?」

「え、」

「もし、私の身が危ないって言うたら……君はお人好しな心を揺すられ、私のために屯所へ戻るのん?」

「っ」



嗤笑(シショウ)混じりの声。尤もなことを言われてしまい、返す言葉が見つからない。


戻りたいわけがない。助かりたいからこそ、この一見怪しげな男についてきたんだ。でも、さっきの言葉に善心が刺激されてしまったのも事実。仮にも命の恩人が、私を助けたばかりに危険に曝されると思うと心苦しくなる。本当に忍びない状況というか―――といっても、結局はこの心配も自分のためなんでしょうね。この人の身に何かあったとき、自分に卑怯者のレッテルを貼られることが怖いだけで。この時代で綺麗事は通用しない。




「すいません、からかってしまいましたわ」


無言となった私を心配してか、平田はくすくす笑う。



「私のことなら大丈夫ですから、気にせんで下さいね?だって―――」


歩く速度を落とす。


「私も、もうあそこへ戻る必要なんてあらへんのですから」


どういう意味?そう訊こうとしたとき、平田は不意に足を止めた。



「着きましたよ」


気付けば前方に竹薮があり、その中へと続く細い小道の入り口が口を開けていた。