京都市内。
辺り一面を覆うのは濡れた羽のような黒。街灯なんて存在しない。民家は連なっているものの、人通りもないに等しい。肌を刺すように冷え込んだ空気の中、私は背後を気にしつつ平田の後に続いていた。
どこかの家で待ち合わせしているのか、と思い、尋ねたところそうじゃないらしい。
待ち合わせ場所はとある竹薮の近く、とのこと。なんだかおかしな話。でも今の私にはそんなことを気にかける余裕はなかった。
「門番の人…座ってたけど、本当に寝てたんですか?」
私は平田に手引きされ屯所を抜け出した際、気掛かりだったことを思い出す。吐く息が白く濁り、消えた。
「あぁ、たまにおるんですよ、隊務中に寝てまうやつが」
平田は振り返ることなく、足早に進んで行く。
「私もあそこ突破するんは難関や思てたんですけど……いやー運が良かったですねぇ」
「はぁ、そうなんですか…」
平田の声がけらけら笑う。
もし、門番たちが寝てなかったらどうやって突破するつもりだったんだろう?これ、結構重大な問題なんじゃないの?
瞬時にそんな疑問が浮かんだけど、口には出さないでおくことにした。
それにしても平田の足は速い。本当に速くて、罪悪感を背負った私は駆け足のような状態でついていくのが精一杯。自分たちは逃走した身。気付かれれば追っ手が来てしまう。捕まれば全てが水泡に帰す。急がなきゃいけないのは当然のこと。
