凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━




「今度はなんだ」

「はい。こんな物が部屋に残されてたんですよー」


鞠千代は懐から一枚の紙を取り出した。文のようだ。土方はそれを受け取り目を通す―――そこには簡単に言えば我らの仲間を取り戻しにきた、と。長州藩士が書いたと思しき文面が書き連ねられていた。



「おめぇらやっぱり長州のやつらだったんだな!」


読み終わった文を握り潰し、土方は鋭い目付きでまだ言い争っていた男二人を睨む。



「長州……?何のことだ!」

「惚けんな!!ご丁寧に文まで残したくせに逃げ遅れるたぁ、笑わせるぜ」


土方が鼻の先でせせら笑う。二人は一瞬、本当に訳がわからない、というように沈黙したが、すぐにその疑問を怒りへと変換し噛み付くように口を開いた。



「俺たちが長人だと?……は、笑わせるなはこっちの台詞だ!!」

「冗談じゃねぇ!!俺たちはこの命、生まれたときから徳川に捧げてんだ!!」

「あんな文を残すなんざ聞いてねぇぞ…!なんで俺らが長州藩士に?誰があんなもん…!!」

「そうだそうだ!んな文なんか知るか!俺たちはただ、間者を殺せとしか……!!」


勢いに任せべらべらべらべら話し続ける男二人。その吐き出された言葉の一つに、一気に土方の思考が醒める。


――あいつを、殺す?……どういうことだ?こいつらが仲間でないことはわかったが何故あいつを殺す必要がある?あの小娘……ほんとに一体何者だ…?



目の前の男たちの目的。朔の正体。殺害を命じたのは誰か、その狙いは…等など。様々な疑問が頭の中を駆け巡り―――ともかく土方は今真っ先にすべきことを命じた。