空耳かと思った。私の時間がぴたりと止まる。
………助けるって、何を?誰を?……私を?
…だとしたら、何言ってるんだ、この男は。
人の良さそうな笑みに加えてこの台詞。私の目にはそれらが胡散臭いものへと変換され、映る。
「嫌やなぁ、警戒せんで下さいよ。私は新撰組隊士の平田といいます」
ご丁寧にもわざわざ新撰組隊士とまで名乗るなんて、なんか変だ。
怪しいと思っていたけれど、この台詞に抱いてた怪しさは萎むどころかますます膨らんでゆく。
それに、新撰組隊士がどうして敵と思い込んでいる私を助けるの…?
平田が腰を下ろすのを横目に、私はすぐ立ち上がり逃げられるよう、足の裏に力を込めておく。
「まだ一部の隊士たちの間なんやけどね、噂が流れたんですよ。〝副長たちが長州間者かもしれんやつを連れ帰った〟って」
警戒を解かない私をよそに平田は勝手に話し始めた。
「そしたら〝それが全然間者らしくない子で、もしかしたら濡衣を着せられとるんかもしれんのや〟って聞いてな、そんな子が殺されるんはかわいそやなーって思ったんや」
如何にも心配してます、といった風に眉を下げる。
何故だろう。自分のことを心配されていて、素直に喜んでいいはずなのに何かがつっかえる。全然、うれしくない。
「でな、今私の友人が上方から京へ出てきとって、そいつに昼間会いにいって君の話をしたら〝自分ん家で匿ったろか?〟って言うてくれたんですよ!」
「えっ?」
上手過ぎる話、出来過ぎた話。たっぷり塗られた甘い蜜。
わかっていながらも、反応を示してしまう。
