『ねぇ、朔(サク)ちゃん。知ってる?人喰い桜の話し…』

『なあに?それ』

『お月さまが真ん丸くなる日に、この桜の木に近づくと、桜に食べられちゃうんだって』

『えぇえーそんなの怖い!もし食べられちゃったら、どうするの?』

『大丈夫。そんなときは僕が朔ちゃんを助けてあげるから!』

『ほんとーに?』

『うん!僕が絶対に助けてあげるね』



少年は小指を差し出す。



『約束だよっ』

『うん!!』


満面の笑みで、幼い私は小指を絡ませた。




―――その数日後、少年は突如として姿を消した。


最後に目撃されたのは、例の人喰い桜の下で遊ぶ姿だった。

そして、その夜は、見事な満月だったそうな。




もう名前すら覚えていないけれど、

あの子は……誰だったんだろう?