凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━




私は沖田さんを凝視する。まるで助け舟を出すかのような台詞。冗談とはいえ、さっきは刀を向けてきたのに。



「そういえば…私にも思い当たる節が」


それに便乗するように東雲さんが言う。



「なんだ?言ってみろ」

「はい。この娘、着物の着方を知りませんでした」

「……。」



いたって真面目な顔つきで答える東雲さんに、土方さんは無言で眉間の皺の本数を増やす。

返す言葉が見つからないみたいだ。彼女はそんなふざけた冗談を口するようには見えないから。



「正確には忘れていた…と言った方がよろしいでしょうか」


更に東雲さんは付け加える。


「私も初めはふざけていると思っていたのですが、着替えを手伝い、わかりました。本当に着物の着方がわからないようなんです」

「演技、かもしんねぇぞ?」


沈没しかける助け舟。土方さんは尚も疑う姿勢を崩さない。



「土方さん。いくらなんでも長州も〝着物の着方を忘れました〟なんて、見え透いた嘘つくようにとは教えないんじゃないですか?」

「確かに…そう言われれば、そうですねぇ」


沖田さんの述べた言葉に、山南さんは左隣をやや気にしながらも頷いてくれた。



「それに、この子は昨夜目の前で人が斬られる場面や、大量の血が飛ぶ場面を目にしてるんです。もしこの子がふつうの町娘だったとしたら、そんな場面にはあまり出くわさないでしょう?だから、」

「目にした悲惨な光景に衝撃を受け、記憶を失う可能性もあるのでは……ということですね」

「さすがっ。山南さんは話が早いですね」


途中から山南さんが自分の言い分を完璧に代弁したことに、彼は満足そうに笑った。