―――文久四年、元治元年、京都。



一人の青年は瞳を開けた。ゆっくりと開かれる瞼に、微かに差し込む太陽の光。どうやらまだ夜が明けて間もないようだ。

覚醒し切っていない重い頭のまま、上体を起こした。



――また、この夢か…


最近頻繁に見る夢。

顔はわからないが、恐らく面識などない少女が泣いているのだ。知らない風景。口にする台詞はいつも同じ。


――彼女は誰なんだろうか。何故僕の夢に…?




青年は額に手をあて、小声で冷たく言った。



「生きたくない…?…ふざけるなッ……!」



それは、青年たちにとっては信じ難い内容。

なんて贅沢な悩み。この時代では命は簡単に奪われゆく。例え本人が望んでいなくとも。花が散る如く一瞬で、消える。




――会うはずなんてないだろうけど、こんな甘いやつ、会いたくもないけれど…




「そんなに生きたくないなら…………殺してあげようか?」



――僕は、命を奪う立場なのだから…。


青年は自嘲するように口元だけで笑った。