凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━





「違う、だと?あそこは長人の潜伏先だったってのにか?」


濃くなった皺に、責めるような口調。


「…ほ、本当です…!嘘じゃ、ないです……」



薄々感じてはいたことを今、確信した。

私、誤解されてるんだ。


今、初めて知ったのに。タイムスリップしてから目覚めたあの場所が長人―――長州藩士の潜んでいた邸だったことを。そういえば、昨日私を斬ろうとしたあの青年や、人質にとってきた男がそんなことを口にしていたような気もする。でも、そんなこと今まで忘れてしまっていた。

嘘なんてつけるわけない。嘘をつけるような状況でもないよ。私の言っていることは全て事実で、紛れもない真実。




「なら、お前どこの人間だ?」


今の私にとって、最も触れられたくないことだった。


「調べたところ、長人たちにあの邸を提供してた夫婦に娘はいねぇ。長州の人間じゃないなら、何故お前はあそこにいた?」

「それは……」



つい、無言となってしまう。


何故あそこにいたか?―――タイムスリップしたから。

答えは言うだけなら実に簡単。単語一つで片付けられる。でも、こんな答えが通用するはずない、信じてもらえるわけない。考えなくてもわかりきっているし、正直に答えようとも、結果なんてハッキリ目に見えている。




「なんだ?答えらんねぇのか?」


ますます怪しい、とでも言いたげに土方さんは目を細めた。

背後の東雲さんからは小声で〝正直に答えろ〟という後押しも。


心に焦燥が芽生える。何か言わきゃ、何か言わなきゃいけない。言葉に詰まれば疑いが深まってゆくだけ…。でも―――なんて答えればいい?正直に答えたいのは山々だけど〝未来から来た〟なんて言えるわけないし、投げ遣りになって、長州の人間です、と認めたとしても続く質問には答えられなかったら、また怪しまれる。


何か言わないと、どうにかして上手くごまかさないと。

私の命は、本当に……