凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━





「そうでしょう、土方くん?」


山南さんは鋭い目の人に問い掛ける。

耳にした名前に衝撃が走った。


この怖い人が土方歳三……?!授業で習った、あの、新撰組副長の………ナルシスト…!!


でもそれも妙に納得できる。普段あまり男性に騒ぐタイプじゃない私の目から見ても、本当に綺麗な顔をしていると思う。芸能界にいてもおかしくないような顔立ち。

今の状況がもう少し別のものだったなら、私、きっとこの出会いをもっと純粋に感激して喜べた気がする。



土方さんは舌打ちすると、改めて視線を私へと向けた。視線が交わった途端、自然と体が強張る。



「おい。これからいくつかの質問をする。正直に答えた方がてめぇのためだぜ。まず最初に…名を名乗れ」


凄みをきかせた低い声。緊張でどくどく、と心臓が鳴る。握り締めた手が汗ばんできた。



「…聞こえなかったのか?」

「あ……綾瀬、朔…です……」


自分の声とは思えない、緊張で掠れた弱々しい声。



「じゃあ次だ。お前は長州の人間だな?」

「っ……ち、違います…」



まるで断定されたような言い方に、声を震わせながらも慌てて否定する。はっきり否定しなきゃいけない、あやふやな返事ではダメ、と強く思ったから。