凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━




「いいかい、嬢ちゃん?」


床を見つめたまま角を左に曲がったとき、前方から諭すような声が降ってくる。

初めて顔を上げると、島田さんは困惑の色が濃い笑みを浮かべた。その笑みの向こうの突き当たりに、目的地と思われる障子が見える。



「自分の知ってることは包み隠さず、全部話すんだぞ?そうすりゃ命までは、」

「島田さん」


背後から恐ろしいまでに静謐な声がそれを遮る。


「敵に情けをかけるものではありません」


島田さんは何か言いたげだったけれど、少女の視線と言葉がそれを制したのか、そうだな、と返すと私に哀れみがこもった視線を投げ、また前を向いた。

《敵》とハッキリ言われたことにショックを受ける。…わかっていたことなのに。



「処遇など…もう目に見えているけどな」


そのとき、私の耳は少女の小さな呟きを拾う。不思議なことに、その声からは冷たさを感じなかった。



障子の前で私たちは歩みを止めた。

少女が私の横に並び、島田さんが障子に手をかける。


この先には、果たして何が待っているのか―――。


目の前の障子が、ゆっくり左右に開かれた。