『着方、が…』
『声が小さい』
『っ…着物の着方が……わからなくて…』
『……は?着物の着方がわからない、だと?……………ふざけているのか貴様はぁッ!!!!!』
『ひぃ……!』
『そんな馬鹿なことがあるか!お前、今までずっと裸で生きてきたのか?!布に負けるのか!!え゛?!!一体どこの国に自分が生まれてから身に付けてきた物の着方を忘れるやつがいるんだ!!そんな馬鹿者がいるのなら、今すぐ私の前に連れて来いッ!!!!!』
正直に白状しただけの朔に対し、少女は今にも抜刀し兼ねない様子で怒鳴り散らす。
その鬼さながらの形相に朔が顔面蒼白になっていると、少女の声を聞いた島田が駆けつけてきてくれた。島田に宥められ、落ち着きを取り戻した少女に着替えを手伝ってもらい、なんとか事なきを得たのであった。
確かにこの時代の人々からしてみれば、着物の着方を知らない、というのはあり得ないこと。変人意外の何者でもない。しかし朔は今まで一度も着物はおろか、浴衣すら着たことがなかったため、自分一人で着替えることは不可能なわけで。
改めてタイムスリップした現実を思い知らされた気がした。
「いやー、今日はやけに饒舌だね」
少女をちらりと振り返り、島田さんはおかしそうに笑い声を零す。
島田さんは大柄でとてもいい体格をしている。見るからに力持ちって感じ。私が逃げ出そうとしたら、すぐに対処できるようこの人を選んだのかもしれない、と思ったけど、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出すこの人に、少しだけ安心感のようなものを覚えた。本当に、微量でしかなかったけれど。
「〝呆れて物も言えなくなる〟というのは、どうやら嘘のようですね」
痛いほどにびしびしと背に刺さる視線。痛くて申し訳なくて、俯いたままの顔を上げることができない。
