屯所内の廊下。
ぱたぱた、ぱたぱた。そこに響く三人分の足音。
再び両手を縄で縛られた私は前を島田と名乗った男、そして後ろを少女に挟まれ、どこかへと連行されていた。
「呆れた、嗚呼呆れた。ほんっとーに呆れた。これほどまでに呆れたのは、生まれてこの方初めてだ」
少女はなんとも不機嫌そうな顔で先ほどからずっと〝呆れた〟と繰り返している。
その口撃の度に、ただでさえ沈んでいた私の気は底なしの泥沼に嵌ったようにますます深いところへと沈んでゆく。
一体少女は何に心底呆れているのか。それは遡ること数十分前―――
『あ、あのっ…』
引き戸越しに自分を呼ぶ控えめな声に、少女は正座していた腰を上げた。
『終わったか………なんだ?着替えておけと言ったはずだが』
少女は怪訝そうに片眉を吊り上げる。
自分が退室してからそれなりの時間は経っているはずなのに、朔はまだ洋装のままだったのだ。
『それが……わからないんです』
少女の冷たい目から逃れるように朔は俯き、膝の上に置いていた着物を握り締める。
『何が』
『えっ』
『何がわからないんだと聞いている。はっきり言え』
少女の強気な口調に朔は膝上の手の力を強め、決意したかのように恐る恐る顔を上げ小さな声を出した。
