凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━




「ここはッ…今の西暦、年号……今の、今の年号は何ですか?!!」


次の瞬間、今まで冷静だった自分が嘘のように、私は悲痛な面持ちで少女に縋りつく。



「っな、なんなんだいきなり!」

「お願いです教えてください!!今の年号は……時代はッ?!」

「やめろ、離せっ」


少女は我を失い、自分に縋る私に驚き、その腕を振り払おうと困惑した表情を見せる。

悲愴の瞳での訴え。



「教えてよぅ……お願い、だから…っ…!」


私は打ち拉がれたように少女の着物を掴んだまま項垂れた。

信じたくない、信じられないよ。これじゃあまるで、私が……




「おい、答えてやるから顔を上げろ。今は文久四年、元治元年。これくらいお前だって知ってるだろ?」


少女は屈み、私と同じ高さの目線になる。

でも、私は依然として俯いたまま。顔を上げる気になれなかった。


空白。


頭の中が、真っ白なの。さっきまでの不安や悲しみすら一瞬で消え失せて。

告げられた年号は、ふつうに考えればあり得ない事実を、現実としてまざまざと私に突きつけたのだから。頭に一つの言葉が浮かび上がる―――タイムスリップ。自分は人喰い桜に食われ、平成から幕末へと飛ばされてしまったのだ。時空を捻じ曲げて…