少女は何も言わない。
無表情を保ったまま私を見下ろすだけ。まるで、その本心を冷静に見極めようとしているかのように。
その態度に私の不安はますます膨らんでゆくだけだった。
「…本当に、わからぬか?」
少女が口を開く。
その答えが返ってくるまでの沈黙は、もしかしたら数秒だけだったのかもしれない。でも、私にはその時間がとてつもなく長く感じられた。
「わからない、から…聞いてるんです」
「…そうか。ならば教えてやる。どうせお前はこの後絶望するのだ、せめて早い内にそれを与えておいてやろう…」
少女は一旦瞳を伏せ、次に開くと同時に残酷な事実を告げる―――。
「ここは、新撰組屯所」
「しんせんぐみ…」
とてもじゃないけど、信じることなんかできなくて。
繰り返し、その名を反芻する。
新撰組…。
あの、日本史の授業で習っていた?あの、新撰組だというの…?でも、そんな…まさか…
『いたか、総司?!』
『あっすみません土方さん』
ただでさえ困惑している私に追い討ちをかけるように、耳へと流れ込んできた台詞。それはあの黒い服を纏った男たちが交わしていたもの。
総司、土方。どちらも授業で先生が口にしていたもの。聞き覚えがある。
ここは…本当に…?
これまで目にしてきた風景、人々の格好、そして少女の台詞。全てが相俟った瞬間、今までに感じたことのない驚愕と恐怖、そして絶望を味わった。
