「目覚めたようだな」
凛とした、冷たい響きを感じさせる声と共に木製の引き戸が開かれた。
入ってきたのは浅紫(アサムラサキ)の着物に袴姿の……少女?
印象的な涼しげな目許。顎の長さで切りそろえられた短い髪。顔立ちは中性的だけど、声は女性のもの。一瞬少年かと思ったけど、戸を閉めるため背を向けたとき、項で細く束ねられた長い髪が見えた。少年のような出で立ちの、女の子。
男だったら、美少年という部類に入りそうな外見。
「生かされていること、後悔しているか?」
少女は私の枕元に片膝を付くと、手にしていた着物のようなものを傍らに置き
「まぁ、間者ならそう思って当然、か…」
双眸を冷たく細め、私の身体を縛っていた縄を足から順に解き始めた。
誰だろう…この人?
恐らく歳は私とあまり変わらないと思う。入ってきたのが悪人面の男じゃなかったことに、一瞬、安堵のようなものを覚えたけれど、少女が私へと向ける眼差しは決して優しいものではなく、表情にはなんの感情も映していない。
縄から私を解放しようとしてくれてはいるものの、そこに助けようという思いは一切感じられない。淡々と与えられた仕事をこなしているだけのよう。人間なのに、無機質。そんな表現が似合う。
やっぱり、この人も敵なの…?
