凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━





倒れる男。

飛び散る、血。

銀色に輝く刃。

そして闇の中、不気味に光る黄色の双眸…―――





「―――!!」


次々と蘇る、恐ろしい記憶から逃れるように瞼を開く。

再び目覚めた場所は薄暗く狭い部屋だった。また、知らない場所。





「っ、ふ…んんぅー?!」



感じた違和感のままに、声を出す。思った通り、口の中に布が押し込まれていて、くぐもった声しか出せない。これって猿轡?!

更に額には包帯のようなものが巻かれていて、両手首と両足首を縄か何かできつく縛られていた。身動き一つ取れない。



体を動かせない以上、視覚しか情報を得る手がかりがない。目を動かし、状況を探る。殺風景な室内。家具はない。壁には一ヶ所、丸い障子紙がはめられていた。あれは窓なのかな。フローリングとは何かがちがう木材の床。そこに敷かれた一枚の布団の上に私は横たえられていた。


何?一体何がどうなって……?どうしてこんなことに…。私、誰かに誘拐されたの?


私は家族関係を除けば、極普通に生きてきたと思う。だからもちろん誘拐された経験なんかなくて。こんな状況も初めてなわけで。

パニックに陥りかけていた自分をなんとか落ち着かせ、目覚める前を思い出すことに神経を集中させる。と、曖昧だった記憶の断片がだんだんはっきりした映像となり頭の中に流れ込んできた。