凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━




「あ゛?なんだ、ガキが残ってやがったのか…」

「けど、見てのとおり腰抜かしてますからね。すぐ終わりますよ」

「…早く来いよ」



そう言い残し、男性は異形が消えた方向へ駆けていった。

青年はそれを見送ると、硬直している私の元へとゆっくり近づいてくる。



「君も災難だよねぇ。歳も僕とあまり変わらなさそうだし、しかも娘なのに」


一振りされた刀のヒュンという空気を裂く生々しい音に、冷や汗が背を伝う。


「しっかし変な格好だ…。噂話で耳にする異人みたいだね。長人(チョウジン)のやることは、僕らには理解できないなぁ」



すぐ側まで歩み寄ると足を止め、にこりと笑った。

青年は刀の柄を両手で握り直す。向けられた刃先。



底なしの闇が私を飲み込む。殺される、このままじゃ、殺される!

例えようのない恐怖を前に、硬直していた体がガタガタ震えだした。



「震えてるね…。安心しなよ。あまり痛みがないように殺してあげ………あれ?」


何かに驚いたように目を丸くする青年。



「君は……あの夢の…?」



青年が瞳に動揺の色を浮かべた次の瞬間、


バタンッ!!

派手な音を立て、私の背後にあった押し入れが勢いよく開かれた。



「うぁあっ?!」



何が起こったのか理解する間も与えられず、突然背後から首に太い腕を回され、すごい力で無理やり立ち上がらせられた。