そこは、やけに現実味のない世界。

嗚呼、これは夢なのね。すぐに理解できるような朧気な景色。なのに、ひどく懐かしさを覚える。




狂ったように美しい満月を背景に、

ひらり、はらり。

舞い散ってゆく桜。



私が向かい合うように立っている大きな桜の木の下で、一人の少女が蹲っていた。

顔を両手で覆っている。表情が見えない。


泣いて、いるの?ねぇ、あなたは誰?




顔を隠してしまっているせいで、彼女が誰なのかわからない。

けれど、彼女の持つその長く赤い髪に私は見覚えがあった。


顔を覆い隠し、声も出さずに肩を震わせている。



「っ」



その異形を見つめていると、何故だか胸の下辺りがぎゅーっと窄まるような、切なさに似た感覚がして苦しくなった。

不思議にも怖いとは思わない。逃げようとも、叫ぼうとも思わない。



自分の姿と重なるものを感じ、異形の少女へと歩み寄っていく。


声を出して泣けない程、何が悲しいの?誰か、助けてくれる人はいないの…?




「ねぇ、」


伸ばした腕は後少しで少女に届く―――