凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━





凍ったように美しい白い月。立ち止まった私たちへと降り注ぐ、淡い月光。

自然と私の脳裏には人喰い桜が思い浮かんだ。




「―――……夢で見たから」


「え、」



吸い寄せられるように月を眺めていた私はハッとする。今、確かに彼は何か呟いた。けれど囁くように小さくて、聞き取れなかった。


どうしても知りたい答え。聞こえなかったくらいで引き下がるわけにはいかない。




「すみません、よく聞こえなかったのでもう一度、」

「綺麗な月だ」


彼は一旦瞳を伏せ、はぐらかすように空を一瞥し廊下を進んでゆく。



「あーそうですね、じゃなくて!今、なんて言ったんですか?」

「さあ?」

「さあって……惚けずに教えて下さいよ、ほんとはなんて言ったんですか?!」

「しーっ!大声出さない、本当に土方さんにバレたらどうするんだ…!」

「じゃあ教えて下さい。じゃないともっと大声出します!」

「いいよ、別に?君が叫ぶ前に…僕が斬ればいいだけの話だ」

「っな、なんでそんな物騒な方向に話が進むんですか…?!沖田さんはそればっかり―――」





月光が差し込む薄暗い廊下で小声で罵り合う、二つの背中。朔は沖田が見ていた夢を知らず、沖田は朔の正体を知らない。出会った当初は敵同士でしかなかった二人。斬る者と、斬られる者でしかなかった二人。

けれど、出会ってからのこの僅か二日足らずで、互いの心は確実に変化し、何かが芽生え始めていた。


生きたい、そう願った少女はまだ新撰組と出会ったばかり―――。