凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━





どうして彼が。


予期せぬ突然の訪問。驚いたせいか、さっきまでの漠然とした不安はすーっと引いていった。




「こんな時間に、なんで……?」


もしかして、改めて昨日の夜の文句言いにきたとか?


そんなことを考えていると、彼は口角を上げた。



「君の見張り」

「ええぇっ?!」

「あはは、うそうそ。厠(カワヤ)の帰りにちょっと通りかかったから様子見に、ね」



通りかかった、と。それが本当なの偶然を装っているのかはわからない。いつものようにくすくす笑う彼の姿を目にして、不思議にも安堵感のようなものに包まれる。


よかった……。怒ってるんじゃないかって心配だったけど、そんなことないみたいだ。




「まさか君がまだ起きてるなんて思わなかったけどね。寝てないの?それとも寝れないの?」

「ちょっと…寝れなくて」

「ふぅん。だったら、夜風にでも当たってみれば?どうせ寝れないんだから暇でしょ?おいでよ」



彼は手招きすると私の返事も聞かず、歩いていく。

慌てて部屋を出ようとしたら、頭の中に土方さんの怒り顔が浮かび自然と足が止まった。


えっと……部屋から出るな、とは言われてないし……いいよね?



ぶるぶると頭を振り鬼副長の顔を掻き消して。沖田さんの背を追った。