杏は、樹の声を聴きながら
転寝をしてしまった時に
必ず同じ夢を見る。
 
母を病気で亡くした頃の杏は
寂しさからいつも、姉である
百合の傍にいた。
 
百合を母のように慕い、本当の
百合の心の深い傷を知る事も
無いまま、彼女にべったりと
甘えていた。

そんな、百合の傍にいつも
寄り添う男性。

彼は、眠る杏に歌を
聞かせてくれた。
 
その声は、今も彼女の胸を打つ

優しい声は、樹の声と重なる。

目を覚ました杏は、音楽を止め
鏡に映る自分を見つめた。

日に日に亡くなった母に
似てくる自分の姿を見て
母を想い、そして母に問う。

「どうして、お父さんを
 奪ったりしたの・・・
 
 貴女のせいで
 あの女性(ヒト)は・・・」