目を閉じて眠ろうとする樹を
覗き込む杏、数秒後
樹の大きな瞳が開いた。

「イツキ、聞いてくれる
 ・・・」

「いいよ」

ひと呼吸ついた後、杏は
語りだす。
 
自分の心の奥・・・

深くにある母への想いを。

「私の母は心臓が弱くて
 私が四つの時に亡くなったの
 それから、私はずっと
 年の離れた姉を母のように
 慕って生きてきた
 
 父は仕事のせいもあって
 朝と夜が逆転していて
 構ってもらえる時間なんて
 無かった・・・
   
 それでも、姉のユリちゃんが
 傍にいてくれたから
 私は、少しも寂しくなんか
 無かった」

しかし、百合は恋人(樹)と
暮らすようになり

杏は、ひとりきり・・・

それでも雅也の仕事を手伝い
に来る百合に会える・・・

だから、杏は寂しく無い。