胸騒ぎは止む事は無く

彼は心を落ち着かせる為に
瞼を閉じた。

樹の心の奥に、ずっと存在し
続けている遠い記憶が

彼に、そっと語りかける。 

仲間と話しながら、居酒屋
『青月』の扉に、樹が手を
翳そうとしたその時

扉が開いた。
  
「・・・どこへでも

 出て行けばいい」

雅也の怒鳴る声と共に、百合が
店から出て来て、樹の胸に
ぶつかったのと同時に

白いサンダルが宙を舞い
壁にあたり地面に落ちた。

樹の腕の中、彼女は声に
ならない声で言う。

「ご・め・ん・・・なさい」

見上げた彼女の瞳には
涙が溢れていた。
 
長い髪を靡かせて

彼女は裸足で走る。

「おやっさん
 また、ユリちゃんと喧嘩?」