蜜林檎 *Ⅰ*

杏の言葉に、樹は照れて
ビールを飲む。
   
「そう言ってもらえると
 うれしいよ」

「これからも
 素敵な歌を届けてください」

「杏ちゃんは
 ずっと俺の傍にいてね」

「はい、私はずっと
 イツキさんの傍にいます」

彼女の言葉が、樹の過去の
記憶と交差する。

そう、彼が胸の奥に

閉じ込めた

遠い昔の想い。

『わたしは、ずっと
 イッキの傍にいるよ』  

樹の事を信じて、疑わずに
真っ直ぐ見つめる杏の瞳が
一瞬、昔の彼女の瞳と重なり
ハッとするのだった。

樹は今、気がついた・・・

杏は、昔、愛した女性(ヒト)
にどことなく似ている。

朝の風が肌に心地よいタクシー
の中、寄り添う二人
 
杏の宿泊するホテルの前で
停車して、彼女は車を降りた。