しばらく待ってみたが、何も変化はなかった。
どうせ死んでいるのだからどうでもいいや、と投げ出していたが、不意に『ここはどこなのだろう?』と思った。

ずっと昔に、まだばあちゃんが生きていた頃(ばあちゃんは、ぼくが20の時に寿命で死んだ)に、人は死んだら天国か地獄に行くんだよ、と聞いたことがある。


良い行いをしたら天国へ、悪い行いをしたら地獄へ行くの。
天国は白くて明るくて、心が綺麗な人しかいないから、それはそれはいいところなんだよ。
地獄は黒くて暗くて、心が汚れている人しかいないから、それはそれはいやなところなんだよ。
●●は心が綺麗だから、きっと天国に行くね。
……あたしかい?
あたしは自慢できるくらいに心が綺麗な訳じゃあないから、どっちに行くかはわからないけど、天国であってほしいね。神様にお願いしておこうかね。
……神様はね、みんなのことを見守っている、すごくいい人なんだよ。神様は天国に住んでいるの。時には人に厳しくなるけれど、人のためだから、もし絶望がみえたとしても、必ずいい方向に進んでいくよ。


ばあちゃんが言っていたことをぼんやりと思い出していた。●●とは、ぼくの名前なのだろうか?他のことは覚えているのに、自分のことはなにもわからなかった。ぼくは、誰で、どんな人生を歩んだのだろうか。

ばあちゃんの話が本当ならば、ここは地獄というところに違いない。
神様、ぼくは生きていたころ、よほど酷いことをしたらしい。ばあちゃんは悪い人ばかりだと行ったけれど、その『悪い人』ですら、いなかった。

完全な“孤独”だった。