パリでヴァイオリニストとして生きて来た彼。

今彼はもう弦が押さえれないと、声を震わせている。

彼女は彼にヴァイオリンの全てを教えて貰った。
そして彼女は彼に尊敬以上の感情を抱いた。自分が女として彼を支えたいと…。

「ダメだ。お前にはまだ学ぶべき事がいっぱいある…。」

それに…

と続けた彼の視線は彼女を超えて窓の外の真っ青な空を見上げていた。

「お前は俺の左手にはなれないよ。」

誰を見ているのだろう。
そう彼女に思わせるような瞳をしていた。

「天音…行け。」


誰が貴方の左手になれるの。


彼はいつも1人の女性を
心に置いていた。

母国日本にいる女性だという。

フランス生まれフランス育ちあたしは、だから日本に興味を抱いたんだ。

彼を独りにした、
その女性に会えるかもしれないと期待をしながら…。