「はぁはぁ…はぁ…」

息が切れる、彼女は肩で息をしている様に大きく肩を揺らしている。
白い壁に、ツンと鼻を刺激する臭い。それだけで、思考は悪い方へ走っていく。

父の葬儀の後、彼は事故にあった。だから彼女は帰国を取りやめ病院へ走ったのだ。

「先生!!」

白い布団が彼を包んでいた、綺麗な顔には痛々しく傷の手当てがしてある。

頭には包帯が巻かれている。

あの真っ黒な瞳が彼女を見る。少しだけ、唇の端をつり上げる。
それを見た彼女は安心して、彼に駆け寄った。

「…俺、もうヴァイオリン弾けないみたい。」

年甲斐もない、弱々しい声だった。まるで泣きそうな声。

「…………」

彼の左手は、包帯でガチガチに巻かれている。

「あたし、日本には帰らない。…先生の左手に…なりたいの。」